GIFT – 詩音さん

氷室先生の誕生日のお祝いに描いたイラスト【音楽室で……】に素敵SSを付けて頂いちゃいましたvv(喜)



Happy Birthday

 
 
《主人公視点》
 
音楽室と書かれた扉の奥から、ピアノの繊細な音色がかすかに聞こえてきた。
夕暮れ時に似合う、穏かで優しいセレナーデ。わたしのお気に入りの一曲。
(弾いてるのは、きっと……先生だよね……)
ピアノを弾く先生の姿を思うだけで、胸の奥が切なく疼く。
音楽室の前へたどり着いて、ふうっと溜息をついた。
(会いたい。でも、邪魔しちゃダメ……。)
扉を開けたい衝動をぐっとこらえて、音をたてないよう静かに扉を背にもたれた。
部活動も終わり、殆どの生徒は下校してしまっている。
——今日は、氷室先生の誕生日。
直接顔を見て「おめでとう」って伝えたい。その一心で、この時間まで先生を待っていた。
(……素敵……。)
穏かで流れるようなピアノにうっとり聞き入っていると、途中で音色が止まった。
扉の中から微かに足音が聞こえてきて、どんどん近づいてくる。
(気づかれちゃったのかな……。どうしよう。)
いざとなると、先生に咎められるのが怖くなった。胸の鼓動がドキドキと速くなる。
扉から離れて逃げるように歩き出すと、背後でガラっと扉が開く音がした。
「……。やはり君か。」
「………。」
振り向いて、おそるおそる先生の顔を見上げる。
怖い顔をしていた先生は、一瞬だけ優しいまなざしをわたしに向けた。
「何をしている。下校時間はとっくに過ぎている筈だ。」
「……あ、あの、わたし……先生に……、」
言葉を続けようとしていると、先生がゴホンと咳払いをした。
「まあいい。……中に入りなさい。」
「え?」
いいのかな、と思いながら先生を見上げる。
先生は応えるようにフッと笑って、わたしを音楽室に招き入れた。
「実は……君がここに来るような予感がしていた。」
扉を閉めながら、先生はあらぬ方向を見て早口で言った。
「先生……どうして……?」
「………。」
驚いている私を置いて、先生はピアノへと戻っていった。
ピアノの前にある黒い大きな椅子に腰をかけながら、ぴんと背筋を伸ばしている。
「………。」
先生はもう一度コホンと咳払いをして、うやうやしい動作で鍵盤に指を乗せた。
♪〜♪♪〜
綺麗な先生の指先が、鍵盤の上で優雅に動いている。
やがて自分の耳へ届いてきた曲に、思わず笑みがこぼれた。
「ふふ。お見通しだったんだね。」
「………。」
先生が奏でるハッピーバースデーのメロディに合わせて、拍子を取りながら手を叩く。
曲が終わると、心をこめてぱちぱちと拍手をした。
「おめでとう……先生。」
「……。まぁ、おめでたい年齢でもないが……君におめでとうと言われることに対しては、やぶさかではない。」
「ええと、嬉しいってこと?」
「簡単に言えば、そういうことだ。」
「よかった。」
先生の顔を見ながらふふっと笑うと、先生はテレたようにコホンと咳払いをした。
遅くまで残っていたことを咎められずに、しかも、わたしの言葉に喜んでくれている。
「ね、先生……?」
近づいていくと、先生が「どうした」と言いながら、静かな視線をわたしへ向けている。
ピアノと椅子の間に入り込んで、先生へと手を伸ばした。
「……ねぇ……。」
「………。」
先生は小さな溜息をついて、わたしの腕をそっと引いた。
「……来なさい。」
「うん……。」
導かれるままに、先生の胸に頬を寄せた。
けれど、立ったまま姿勢だと思うように密着できず、もどかしい隙間ができている。
「………。」
先生も同じ気持ちだったのか、わたしの太ももを少し強引に引き寄せた。
ひんやりとした、先生の大きな手の平。ドキンと心臓が高鳴る。
「先生……。」
「安心しなさい。その……中は見ない。私の目を見ながらまたがると良いだろう。」
「……。本当に、見ないでね?」
「くどい。」
「ふふ。ごめんなさい。」
先生の頬っぺたが赤くなっていることに気がついて、クスクスと笑みがこぼれる。
言われた通りに、先生の目を見ながらゆっくりまたがった。
「………。」
先生は大きく息をついて、わたしの髪にそっと唇で触れた。
長い腕で、わたしの身体をすっぽりと包み込んでいる。
「……暖かいな、君は……。」
「うん……先生も……。」
頬に感じるスーツのなめらかな生地。そこから伝わってくる微かなムスクの香り。
ぬくもりをもっと感じたくて、先生の背中に腕をまわした。
「先生……誕生日おめでとう。プレゼント、何も持ってこなくてごめんね。」
「……。プレゼントなら、今……もらっている。」
「今?」
「そうだ。……しかし同時に私の忍耐力も試されている訳だが、」
ゴホンゴホンと咳払いをして、先生は語尾をうやむやにしてしまった。
「なあに?どういうこと?」
言葉の意味が知りたくて、先生の顔をのぞきこんだ。
思いがけず、先生は慌てて驚いたような顔をしている。
「! そ、そのまま……君には動かずにいてもらえると、有り難い。」
「先生……難しいことばっかり言わないで、わたしにもわかるように言って?」
拗ねてみせると、先生が「そうだな」と言いながらフッと笑っている。
「驚かないと、約束できるならば教えてやっても構わないが。」
「……そんなこと……約束できないよ……。」
「それは残念だ。」
何か企んだように笑う先生の胸を、ぽかぽかと叩く。
「もう、先生のいじわる……。」
「意地悪で結構。」
「………。」
返す言葉がなくなって黙り込むと、先生が行き場を失っていたわたしの手を取った。
自分の背中へ回すように促して、ぎゅっとわたしを抱きしめてくる。
「これが、私にとって最高のプレゼントだ。君には……感謝、している。」
「……感謝だけ?」
「他に何があると言うのだ。」
「………。」
甘い言葉が聞きたくて、先生の瞳に訴えた。
透明のレンズに写る自分の頬っぺたは、林檎のように真っ赤になっている。
「先生……ほんとにわからないの?」
「君が、私に何かを望んでいることだけは理解できた。」
「……本当は、わかってるんでしょ?」
「………。」
わたしの言葉に、先生はまた意味深に微笑んでいる。
きっと先生には何もかもわかっていて、焦れているわたしを見て楽しんでいるに違いない。
「もう、いい。しらない。」
すっかり拗ねた気持ちになって、甘い気分から冷めていく。
先生の腕から逃れようともがいていると、ますます腕に力がこめられた。
「やだ、先生。離して……、」
「駄目だ。私が良いというまで、こうしていなさい。」
フッと笑いながら、先生があやすようにわたしの背中を撫で始めた。
「全く、君という娘は……。仕草と視線だけで私を操る。末恐ろしいことだ。」
「え?操ってなんて……。」
「まぁいい。……そんな君も、少なからず気に入っている。」
「少なからず?」
言葉尻を捕らえて、先生の顔をのぞきこむ。
「……表現の綾だ。」
先生はほんの少しテレたように早口で言って、わたしの髪にそっと唇を寄せた。
背中を撫でている先生の穏かな手の動きに、こわばっていた身体と心が溶けていく。
「……先生……拗ねてごめんなさい。」
「謝る必要はない。私も多少大人げなかった。すまない。」
「ううん……。」
甘えるように先生の肩に顔をうずめて、先生のぬくもりに浸る。
「………。」
「……君を愛している。」
「! え……!」
少しぼんやりしていたから、ひょっとして都合の良い夢を見ていたのかもしれない。
もう一度、はっきりと聞きたい。
……でも、聞き返したらまた「くどい」って怒られるかもしれない。
「………。」
心の中で葛藤していると、先生がゴホンと咳払いをした。
「この場合……多少なりとも、何か反応してもらえると有り難いんだが……。」
「……。じゃあ、もう一回言って……?」
訴えるように、先生の瞳をのぞきこむ。
先生は優しく微笑みながら、わたしの額にかかっている前髪をそっと指で梳いた。
「君を……愛している。」
「……。先生……。」
胸がいっぱいになって、言葉を続けられなかった。
「………。」
ドキドキという心臓の音と、先生の優しい声が心の中で響いている。
先生は楽しそうにフッと笑って、もう一度、わたしを優しく抱きしめてくれた。
 


 
思わずこちらが照れちゃうような甘くてキュンとするお話ですvv
この2人は内緒の恋人同士って感じでしょうかvv
……ってか先生!何主人公ちゃんの太もも触っちゃってるのさ!!!!!←嬉しそう
理性と欲望の狭間で苦しんでる先生がたまんないです!!!せんせぇ一人でもーー必死♪(*´艸`*)
全く分かってない主人公ちゃん、流石天然小悪魔ですvv
まさか、SSを書いて頂けるとは思ってもなくて、とっても嬉しくて大はしゃぎしちゃいましたvv
長年イラスト描いてますけど、こういった機会は滅多にありませんし!本当、感動です!
詩音さんありがとうございましたvv